在庫コンサルタントの黒田 龍介です。事業再生ファンドのマネージャーとして数多くの中小企業の財務を見てきた私が、今まで最も多く目にしてきた「経営危機の前兆」があります。それは、過剰在庫によるキャッシュフローの悪化です。
「うちの在庫は資産だから、決算を超えてからゆっくり処分すればいい」——そう考えているとしたら、今すぐその認識を改める必要があります。在庫は確かに貸借対照表上では「資産」として計上されます。しかし、売れない在庫は、企業の血液であるキャッシュを固め、全身の血流を止めていく「血栓」にほかなりません。
この記事では、決算前という限られた時間の中で、不良在庫を「損切り」や「廃棄」といった損を確定させる手段に頼らず、「買取」という選択肢によって最大限のキャッシュを回収するための戦略と実務を徹底的に解説します。法人経営者、経理担当者、そして利益を真剣に守ろうとするプロのせどらー事業者の方に、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
目次
不良在庫は「眠れる血栓」である — 決算前に問うべき一つの問い
棚卸資産は本当に「資産」か?
会計の教科書を開けば、在庫は貸借対照表(B/S)の流動資産として堂々と計上されます。確かに原価ベースでの帳簿価額は「資産」です。しかし私はこう問いたい。
「その在庫、1ヶ月後にはいくらのキャッシュになっていますか?」
答えられないなら、それは資産ではなく「仮装した負債」に近い。棚卸資産は、売れた瞬間にはじめて売上原価として費用化され、キャッシュになります。逆に言えば、売れない在庫は帳簿上どれだけ高く評価されていようとも、実際のキャッシュを生み出しません。そればかりか、その在庫を保管するための倉庫代、管理人件費、光熱費が毎月着々とキャッシュを削り続けています。
在庫は「投資」です。そして、すべての投資には「出口戦略」が必要です。決算前とは、その出口戦略を真剣に問われる時期にほかなりません。
在庫が決算書に与える「見えない悪影響」
期末在庫が多いと、経営者が見落としがちな問題が財務諸表のあちこちに現れます。まず損益計算書(P/L)への影響を理解してください。売上原価は次の計算式で求められます。
売上原価 = 期首棚卸高 + 当期仕入高 ー 期末棚卸高
つまり期末在庫が増えると売上原価が減り、見かけ上の売上総利益(粗利)が大きくなります。利益が大きく見える——これは喜ばしいことではなく、「本来計上されるべき費用が未来に先送りされているだけ」という状態です。そして利益が増えた分だけ、法人税の課税所得が増えることになります。
| 状態 | 期末棚卸高 | 売上原価 | 粗利 | 法人税負担 |
|---|---|---|---|---|
| 在庫が多い(処分せず) | 大 | 小 | 大 | 重い |
| 在庫を処分した | 小 | 大 | 小 | 軽い |
次にキャッシュフロー計算書(C/F)への影響です。在庫の仕入れ時点でキャッシュアウトは発生しています。売れなければそのキャッシュは回収できません。過剰在庫を抱えたまま翌期を迎えることは、返ってこない投資を繰り越し続けることと同義です。
さらに融資審査においても、金融機関は「在庫回転率」(売上高 ÷ 棚卸資産)を重要な経営指標として見ます。この数値が低いほど「不良在庫を抱えるリスクが高い企業」と判断され、融資の可否や条件に影響が出ることも珍しくありません。
従来の在庫処分3つの方法と、その「真のコスト」
不良在庫の処分方法として、多くの経営者が真っ先に思い浮かべる手段があります。それぞれの「真のコスト」を冷静に分析してみましょう。
① 廃棄処分
最もシンプルに見える手段ですが、実はコストの塊です。産業廃棄物として処分する場合、廃棄業者への委託費用が発生します。さらに廃棄損として仕入原価がそのまま損失計上されるため、仕入れに投じたキャッシュは一切回収できません。節税効果はあるものの、それは「損失に対して税金が軽減される」だけであり、損失そのものはゼロにはなりません。
加えて廃棄の際には「本当に廃棄したこと」を証明するための廃棄証明書の保管が必要です。税務調査において廃棄損の正当性を証明できなければ、損金算入が否認されるリスクもあります。
② 値引き販売・セール
在庫をそのまま自社チャンネルで値引き販売する方法です。一部のキャッシュ回収が可能な点はメリットですが、複数の問題が潜んでいます。
- 既存の正規販路・取引先への価格崩壊リスク
- ブランドイメージの毀損(「あの会社の商品は安く買える」という認識の定着)
- 大量在庫を消化するには時間とリソースがかかりすぎる
- 決算期という「期限」に間に合わない可能性がある
特にメーカーや卸売業者にとって、自社チャンネルでの値引き販売は既存取引先との関係を大きく損なうリスクがあります。短期的なキャッシュ回収のために長期的な取引関係を壊すのは、本末転倒です。
③ 棚卸資産評価損の計上(評価減)
不良在庫の時価が取得原価を下回っている場合、「低価法」を適用して評価損を計上する方法です。しかしここには重大な落とし穴があります。
国税庁の通達によれば、評価損の損金算入が認められるのは、「著しい陳腐化」(季節商品の売れ残り、新型モデルの登場による旧型の販売不能)や「物理的損傷」などの特定の事実が発生した場合に限定されます。単なる「市場価格の下落」「過剰生産」「建値の変更」では損金算入が認められない点に注意が必要です。
そして最大の問題点——評価損の計上はキャッシュを生みません。会計上の損失を計上するだけであり、帳簿の数字は改善されても、口座残高は増えません。
「買取」という選択肢が最も合理的である理由
廃棄・値引き・評価損——これら3つの手段に共通する問題点があります。それは「キャッシュを最大化する発想」が欠けていることです。
BtoBの在庫買取サービスとは、法人が保有する不良在庫・滞留在庫を、専門の買取業者がまとめて買い取るサービスです。単なる「在庫処分の手段」ではなく、「不良資産を現金化する投資の出口戦略」として理解すべきものです。
理由① キャッシュが即時に入る
廃棄では0円、評価損計上でも0円。しかし買取では、たとえ仕入原価を下回る金額であっても、実際のキャッシュが入金されます。業者によっては商品確認後、最短即日〜3営業日での入金対応も可能です。決算前の逼迫したキャッシュフローを、最も早く改善できる手段がこれです。
各処分方法のキャッシュフローへの影響を比較すると、その差は明らかです。
| 処分方法 | キャッシュ流入 | 棚卸資産の圧縮 | 保管コスト削減 | スピード |
|---|---|---|---|---|
| 廃棄 | なし(コスト発生) | ◎ | ◎ | 早い |
| 値引き販売 | △(時間がかかる) | △ | △ | 遅い |
| 評価損計上 | なし | ○ | なし | — |
| 買取(BtoB) | ◎ | ◎ | ◎ | 早い |
理由② ブランド・取引先へのダメージがない
優良な買取業者は、依頼企業が指定する「販路の制約」に対応しています。例えば「国内の正規販路には流さないでほしい」「海外販路のみに限定してほしい」といった要望に応じて、タグを除去してノーブランド品として流通させる、会員限定サイトのみで販売するといった対応が可能です。
これにより、自社商品が市場に不適切な形で流れてブランドイメージが損なわれるリスクや、既存の取引先との価格競合トラブルを回避できます。
理由③ 会計処理がシンプルで税務リスクが低い
買取サービスを利用した場合の会計処理は、単純な商品売上として処理されます。廃棄損や評価損のように「損金算入の要件を満たすかどうか」を悩む必要がなく、「適正な価格で売却された商品の売上」として処理できます。税務調査において否認されるリスクが極めて低い点は、実務上の大きなメリットです。
理由④ 保管コストのランニングを断ち切れる
在庫を保有し続ける限り、倉庫代・管理人件費・光熱費といったコストが毎月発生し続けます。例えば、月次保管費が10万円の在庫を6ヶ月間処分できずに持ち続けた場合、追加的に60万円のキャッシュが流出していることになります。買取で早期に処分すれば、このランニングコストを即座に断ち切ることができます。
買取を活用した際の会計・税務処理の実務
売却額が仕入原価を下回る場合の処理
買取業者への売却は「売上」として処理しますが、仕入原価を下回る金額での売却となった場合、その差額は損失になります。この処理は非常にシンプルです。
例として、仕入原価100万円の在庫を60万円で買取業者に売却した場合を考えてみましょう。
売上高:60万円
売上原価(仕入原価):100万円
売上総損失:▲40万円
この40万円の損失は、正当な営業上の損失として損金に算入されます。廃棄損や評価損のように「損金算入の要件を満たすか」を問われることなく、当然の商取引の結果として処理できる点が、実務上の大きなメリットです。なお、具体的な会計・税務処理については、必ず担当の税理士に確認してください。
決算期末までに「引き渡し」を完了させることが重要
税務・会計上、在庫の売上(収益)は「商品の引き渡し日」に計上されます(収益認識の原則)。したがって、当期の決算に売却損益を計上したい場合は、決算期末日までに商品を買取業者へ実際に引き渡すことが必要です。
買取の問い合わせをしてから実際の引き渡し・入金までには、業者の査定・交渉・輸送準備などに最低でも1〜2週間はかかると見ておく必要があります。決算月に入ってから慌てて動いても、期末に間に合わないケースは少なくありません。
買取業者を選ぶ際の5つのチェックポイント
法人向け在庫買取業者は市場に数多く存在しますが、品質には大きな差があります。「安く買い叩かれた」「ブランド情報が漏れた」といったトラブルを避けるために、以下の点を必ず確認してください。
- 販路の幅と制御可能性(国内・海外・特定ルート限定など、販売先を指定できるか)
- 秘密保持契約(NDA)の締結が可能かどうか
- 買取後の入金サイト(即日・翌週・翌月払いなど、自社のキャッシュフロー計画と合っているか)
- 一括買取・出張対応の可否(大量在庫の場合、輸送コストや手間を業者負担にできるか)
- 取引実績と法人との取引経験(過去に同業種・同カテゴリーの在庫を扱った実績があるか)
特に「NDAの締結」は見落とされがちですが、自社製品の在庫情報・販売戦略が外部に漏れることは、競合他社への情報流出にもつながります。口頭での約束では不十分であり、書面による秘密保持契約の締結を必ず求めてください。
また、複数の業者に同時に見積もりを依頼する「相見積もり」は必須です。買取価格は業者によって大きく異なることが多く、1社だけの提示価格を鵜呑みにするのは交渉の放棄に等しい。最低でも2〜3社に見積もりを依頼し、条件を比較したうえで判断してください。
決算前の在庫買取を成功させるための実践的タイムライン
決算対応において、「いつ動くか」は「何をするか」と同じくらい重要です。以下のタイムラインを目安に行動してください。
| タイミング | 実施すべきアクション |
|---|---|
| 決算3ヶ月前 | 在庫の棚卸・滞留在庫のリストアップ、処分優先順位の決定 |
| 決算2ヶ月前 | 複数の買取業者へ見積もり依頼、NDA締結交渉 |
| 決算6週間前 | 買取業者の選定・正式契約、出張査定・商品の引き渡し準備 |
| 決算1ヶ月前 | 商品引き渡し完了・入金確認、会計処理の確定 |
| 決算直前 | 税理士と連携し、在庫処分の損益が決算書に正しく反映されているか確認 |
特に「決算直前になって初めて動き出す」のは最も避けるべきパターンです。在庫の量が多ければ多いほど、査定・交渉・引き渡しに時間がかかります。また、買取業者への依頼が決算前の繁忙期に集中するため、希望のスケジュールに対応してもらえないケースもあります。早めに動くこと——これが、在庫買取を最大限に活用するための最大のコツです。
まとめ
決算前の不良在庫処分を「損切りで損失を計上して終わり」「廃棄コストをかけて捨てる」という発想で終わらせることは、経営者として最もコスパの悪い選択肢の一つです。
この記事で伝えたかったことを振り返ります。
- 在庫は帳簿上の「資産」であっても、売れなければキャッシュを生まず、保管コストを消費し続ける「血栓」になり得る
- 廃棄・評価損はキャッシュを生まないが、買取はキャッシュを生む
- 売却損が出ても、廃棄損と異なり会計・税務処理がシンプルで税務リスクが低い
- ブランド毀損を防ぎながら在庫を処分できるのが、BtoB買取の最大の強みである
- 決算3ヶ月前から動き始めるのが理想的なタイミング
在庫処分の意思決定に必要なのは、感情ではなく「数字」です。今すぐ自社の倉庫を棚卸し、その在庫が1ヶ月後にいくらのキャッシュになっているかを試算してみてください。そこから見えてくるものが、あなたの次の経営判断を変えるはずです。
税務・法務の具体的な処理については、必ず税理士・弁護士などの専門家に相談のうえ、適切な手続きを踏んで進めてください。